旅をした日:2005/07/21
今となってはなぜここに行こうと思ったか覚えていない。もう10年以上前の記録である。
おそらく手元に恋路沢ハイキングコースのパンフレットがあり、それを歩こうと思い立ったのだろう。
※現在この山域はヤマビルの巣窟であり、夏季は歩かないことをお勧めします
東武鬼怒川線の鬼怒川公園駅で下車。ここから吊橋(滝見橋)で鬼怒川を渡り、ロープウェイ入口へ。わずか4分で標高差300mを駆け上がる。
山頂駅からの展望は素晴らしい。眼下には鬼怒川温泉が一望でき、北には高原山、南には今市の山が望める。
上の写真にあるように、ここにはおさるの山があり、ささやかな(といっては失礼だが)さる小屋(鹿もいる)がある。見学はすぐに終わり、温泉神社に向かった。
丸山山頂駅からは登りとなるが、ロープウェイで300m登ってきているので、あと150mだ。温泉神社を過ぎ、なだらかな登りを行く。途中に1つベンチがあった。「おっ、よく整備されているじゃん、楽勝だな」と高をくくった。しかし、今後の展開を知る余地はなかった。
途中に分岐があり、「行き止まり」表記のほうに進むと丸山山頂近くに行けるようだが、このときは無視してまっすぐ一本杉へと向かった。
一本杉分岐に到着。ここには東屋があり、今後のルートの計画を立て直した。というのも、自分が行く予定だったコースに「行止り」の標識があり、見てみると藪で埋まっていて進める様子ではなかった。右を見ると林道が続き、「川治温泉 8,500m(4時間30分)」とある。ちなみにこの時点でお昼を回っており、しかも昼食はおろか飲み水すらろくに準備していなかった。当時の自分がいかに愚かで準備不足であったかがわかる。
しかし、私はこのまま林道を突き進んでしまう。いたるところで土砂崩れが発生している荒れた道を、晴天の中独り黙々と歩いたが、いつまでたっても何の案内標識もない。
しかも恋路沢に下る筈の道は、いつまでもくねくねとしたカーブとアップダウンを続けている。にわかに不安が募ってきた。
(現在ならスマホのGPS機能で簡単に現在地を特定できたのだが…。)
すると、ちょうどいいタイミングで標識が現れた。ほっと胸をなでおろした。ここは分岐で、右は行止りなので、左に行く。道は恋路沢に向かって下降を始めた。
下降とともに落石も増え、上の写真のような説得力のある「落石注意」標識も。
また、通常の「落石注意」標識は道に落ちている石に注意せよという意味だが、ここの標識はずばり「落ちてくる石に注意!」である。10年前からこの状態なので、現在はもっと酷い状態だろう。
下る途中、突然シカが飛び出してきた。登山中に大型の動物と出合ったのは初めてである。
沢音も聞こえ、ようやく安心した。恋路沢まで下ってきたのである。湧水も豊富だったので、湧水を飲みのどを潤した。幸い腹を下すことはなかった。
人生で初めての沢沿いの歩きであった。楽しいの一言だった。台風の後で増水していたが、流れは清らかで、鬼怒の奥入瀬とも呼ばれる瀬と淵を繰り返す美しい流れを独り占めできた。あたりにはごうごうと沢の音が響き渡っていた。
また、恋路沢は、更なるアトラクションを私に用意してくれた。
この日は台風の後で増水していて、上の写真のように、小さな沢の水が側溝に収まりきらず、あふれていた。ここを慎重に渡り、、先へ。
林道はコンクリート舗装であり、少々味気ないが、沢とこんなに近いところをずっと並行していく林道もあまりないだろう。
カーブでは沢が狭められ、滝のような流れとなっていた。
しばらく歩くと逆川出合に着く。ここから先はやや立派な道となる。谷が深くなり、沢の音は遠くなってしまう。
なお歩き続け、逆川トンネルへ。手掘りの、風格ある隧道である。
トンネルの左側には、大きな砂防堰堤があり、水がかなりの落差をつけて流れ落ちていた。
それを観賞した後、コンクリートの大規模な法面を過ぎ、さらに歩くと、やっと、谷の向こうに国道が見えた。
そして、車止めに着いた。ここには、「恋路沢ハイキングコース入口」の看板があった。「7.2km」とあり、「ずいぶん歩いたものだなあ」と感慨に浸ったが、終着地の川治温泉は、まだ3kmもある。足はもう棒のようだ。
ここから、谷に下り浜子橋を渡る。浜子橋は鬼怒川に架かるつり橋で、増水した鬼怒川がものすごい迫力で、しかも足元が網になっており下が見える構造となっており、なかなか恐ろしい。すぐに通り過ぎた。
再び上り、ようやく国道の旧道に出る。ここから北に向かえばいいのだが、旧道は自然に還っていた。仕方なくトンネルまで遠まわりする。
先ほどは沢の流れの音に支配されていたが、今度はトンネルを行きかう車の音があたりを埋め尽くした。
トンネルを出て、さらに歩き、ようやく、ようやく、川治温泉駅に着いたのであった。
時刻はもう15時を回っていた。お腹はぺこぺこ、喉はカラカラ、足はくたくたである。このあとコンビニに寄り、昼食と炭酸飲料を買ったのだが、その時飲んだ炭酸飲料の爽快さは今でも忘れられない。